音楽の旅 ~ピアノ雑記~

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Yuki NOGUCHI(野口裕紀)

演奏会、日頃の練習、レッスンの様子など不定期で書き記していきます。



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非和声音への意識(とりわけ倚音の扱い)
たまにはレッスンネタを書いてみよう、という試み☆
日頃、ピアノのレッスンをしていて、よく言うようなことを書いてみたいと思います。

まずは、ピアノ演奏上のちょっとしたコツ「非和声音の扱い」から。
初心者から上級者まで、これを意識するだけで演奏がレベルアップするはずです(^_^)

***

ピアノを演奏する時に、和声の関係(ハーモニーの結びつきと力関係、またそれぞれの和音の構成音の中でも重要な音への意識)を表現することはとても重要ですが、和声感を表現する上では同時に意識すべきことが他にもあります。
それは「非和声音」への意識です。

今回はこの「非和声音」にスポットを当ててみたいと思います☆

現代曲など特殊なものを除いて、普通はどんな曲にも常に和声(ハーモニー)という支えが存在しています。
それぞれの和声を構成している具体的な音のことを『和声音』と言います。それぞれの部分を支える「ドミソ」とか「ドファラ」とか「シレソ」とかのことです。

非和声音というのは、文字通り和声音に非ず(あらず)ということで、和声音以外の音のことを指します。

多々ある演奏上のコツの中でも、とりわけ重要なものがこの非和声音の扱いです。


さて、曲の骨格として和声が存在するということは皆様もよくわかっていることと思いますが、その響きに乗せられて歌われるメロディーは和声音だけで出来ているとは限りません。
もし和声音だけでメロディーを作ると、単調でつまらない曲になります。

例えば有名なショパンの「別れの曲」を例にとって見てみましょう。
この曲のメロディーも実際には美しく非和声音が絡み合って出来ています。(譜例1)
仮にこの曲から非和声音を取り除いてみるとどうなるでしょうか。(譜例2)


(譜例1)    (譜例2)


譜例2のように純粋な和声音のみで構築されていると、なにか物足りない感じがします。
和声そのものの持つ色合いの変化ということで曲を聴かせることはできますが、如何せんメロディーがこれではつまらなくて演奏する気が起きませんね(^_^;

曲をよく観察してみると、和声音だけではなく、非常に多くの非和声音との組み合わせで出来ていることがわかります。


さて、メロディーは「和声音」と「非和声音」の組み合わせから出来上がっていることをわかっていただけたと思いますが、演奏の非常に重要なポイントは実はこの「非和声音」を意識することにあります。

非和声音が登場すると、ハーモニーとぶつかりを起こすために、そこの響きに緊張感が生まれます。
その瞬間、響きとしては複雑なものになり、耳がその部分を処理するのにも若干の時間が必要になります。
人の耳は、それを味わい深く、素敵なものとして捉えます。(葛藤や苦しさなどがあった方が、ドラマの深みが増すというように。)

そして、非和声音の中でも、とりわけ倚音(いおん)への意識を深く持つことで、和声との関係がはっきりし、メロディーがより生き生きとしたものになり、演奏の深みもグッと増します。

それでは、倚音というのが何なのか見てみましょう。
(今回の話の核心部分です!)

譜例3をご覧下さい。非和声音をいくつかの種類に分けたものです。
ここでは、非和声音の中でも主なものを3つまとめてみました。(実際にはこれ以外にもいくつかの種類があるのですが、今は重要ではないので割愛します。)



(譜例3)


[経過音]/演奏動画3-A
経過音とは:和声音と和声音の間の架け橋として経過していく音です。経過音を使うことで、和声音から和声音へ跳躍せずに順次進行(音階)でなめらかにメロディーを繋げることができます。
演奏上の注意:特にありません。前後の和声音と同じ音量で弾くのが良いでしょう。

[刺繍音]/演奏動画3-B
刺繍音とは:同じ和声音同士の間を縫っている音です。上下を縫って元の音に戻る様子が裁縫の刺繍と似ていることから刺繍音と呼ばれます。経過音同様、なめらかなメロディーを作ります。
演奏上の注意:特にありません。アクセントを付けるほどではありませんが、しっかりと弾きます。

[倚音]/演奏動画3-C
倚音とは:経過音や刺繍音の場合は、まず最初に和声音ありきで、それから非和声音が登場し、再び和声音に解決していましたね。それに対して、倚音というのは最初に和声音を置かずに、いきなり非和声音からぶつかるケースです。非和声音というのはバックグラウンドで鳴っている和声音(ハーモニー)に対して不協和的な性格を帯びます。倚音のようにいきなり非和声音からぶつかると、その衝突や摩擦が強いエネルギーや緊張感、葛藤といったものを生み出します。それが次の和声音に解決するからホッとするのです。その関係をはっきりさせることにより、音と音の関係が生きてくるので、倚音は特にしっかりと意識する必要があります。
演奏上の注意:倚音は往々にして深めに弾くといいでしょう。深めというのは具体的に言うと強め長めなタッチです。軽いアクセントを感じたり、あるいは若干のテヌートやルバートを感じて少し粘ったりします。もちろん、前後の流れによって粘ったりアクセントを入れてはおかしいような場合は特になにもしませんが、それでも、しっかりしたタッチで決して弾き損ねないようにしてください。


「経過音」「刺繍音」「倚音」を3種類の非和声音を見てきましたが、いずれの非和声音も、和声音とのぶつかりを帯びているので、きちんとその関係を見せるためにも、ふにゃっとした音であいまいに弾いてはいけません。つまり、非和声音はいい加減なタッチにならないよう常に意識を向けているということが、何よりも演奏上のコツなのです。特に倚音の場合は「特別扱いをするのだ!」というくらいの意識を持っても良いのです。


それでは、倚音を意識すると演奏がどのように変わるのか、具体的な例をとって見てみましょう。
譜例4~6はそれぞれAが元の楽譜、Bが倚音に印をつけてコツを記したものです。

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譜例4-A、4-B(ベートーヴェン:ソナタ、Op.49-2の1楽章の9~10小節目)


(譜例4-A)    (譜例4-B)



譜例5-A、5-B(クーラウ:ソナチネ、Op.20-1の1楽章の32~38小節目)

(譜例5-A)    (譜例5-B)



譜例6-A、6-B(モーツァルト:ソナタ、K.333の1楽章の10小節目まで)

(譜例6-A)    (譜例6-B)


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以上のことからもわかるように、倚音というのは実は最も簡単に見つけられて、最も演奏に反映しやすいコツの一つでもあるので、読譜の際には「どれが倚音かな?」と注意を払いながら読んでみることをおすすめします。
倚音を見たら、まずは「強く弾いてみる」「少し長めに粘ってみる」ということを両方試してみてください。きっとしっくり来るような音の関係バランスが見つかることでしょう。アクセントや粘りのような余計な表現はいらないなと感じる時は、他の音との差別はせずにただはっきりと弾くだけでも十分です。そのあたりは曲の前後関係の流れやバランスとの兼ね合いですので、ご自身のセンスを信じて判断していってください。

また、付け加えておかなければなりませんが、倚音の次に置かれている和声音(解決音)の扱いに関しても留意すべきことがあります。
「解決音」は決して押したような固い音にせず、基本的には腕をフワッと持ち上げながら柔らかく触れる「抜き」の音で弾いてください。(譜例5-Bの32~37小節目)
ただし、動きのあるパッセージの起点や最中に置かれた倚音の場合は次の和声音も抜きすぎずにしっかりと弾いていきます。(譜例5-Bの38小節目)


※余談ですが、倚音の仲間に「掛留音」という非和声音があります。「掛留音」とは、和声音の中のどれかの音がタイで残ったまま他の音たちが次の和声へと移行した時に、タイで残された音が次のハーモニーの中では倚音のようなひっかかりを帯びているケースのことです。残った掛留音と、新しく鳴らす和音とが葛藤を起こし、掛留音が倚音的に働きますので、響きのバランスをよく聴いて弾いてください。